3月1日水曜日
今日から3月。春らしい暖かな日差しが続きます。ただ風が強くそこには冬の厳しさが残っています。
この冬は、数年に一度という寒波が来る反面、暖かな日が多く雪の少ないシーズンとなっています。山荘付近では、例年4月初めぐらいまでは積雪量が増えるのですが、今年はこの先どうなりますか。残雪期や夏の水の事を考えると、まだまだ降って欲しいですね。

さて、この春らしい陽気に誘われて3月は毎年入山者が増える月です。それに比例して事故も多くなる傾向にあります。ただ入山者が増えるだけでなく、雪山に対する意識や技術が不足した方の入山が増えるからではないかと常々感じています。

この冬は全般的に暖かかったので、既に2月からそういった登山者が散見されています。コロナ禍が落ち着きはじめ、抑圧されていた気持ちが開放的になってきているのが、目に見えてわかります。

以下のような事例は潜在的な遭難者となりますから、あえて紹介させていただきます。参考にして頂き、絶対に真似をしないようお願します。

(事例1)
その日は晴れの予報となっていました。しかしながら、昼頃から雲が出始めあっという間に雪が降り出しました。風も出始め雪も強くなりだした頃、ふらっと一人の登山者?!が現れました。その裝いはというと、ジーンズに軽登山靴、手には枯れ枝二本をストック代わりに持ち、スノーシューは履かずにつぼ足という感じです。おそらく既にジーンズや靴は濡れ始めていると思われました。「どこへ行くのですか?」と尋ねると、「夕陽を見に行こうと思って」という返事。よくここまで来たなと感心しますが、やはりこれはまずいでしょう。思い止まらせて戻らせました。何を参考にして計画を立てたのかはしりませんが、何月のいつ頃の記事(最近は動画)なのか、よく検討してから入山してほしいものです。

(事例2)
これも天気予報では晴れと出ていたある日、予報に反して明け方から雪となり、風も強く吹いていました。その日の泊まり客の準備をしていてふと気付くと、メールが入っていました。確認すると、「今頂上直下でビバーク中です。ホワイトアウトで降りれません。天候はこの先どうなるでしょうか?」とあります。私に天候のこと聞かれても困るし、ましてやこの方がどれぐらいの技量を持ちどんな状態なのかも分からないのに、うかつな返事はできません。よっぽど警察に相談してくださいと言おうかと思いましたが、気を取り直し、「不安があるならその場で我慢してください」と伝えて凍傷や低体温症を避けるため保温に努めるよう促しました。3時間程経ち、状況が多少回復したのか、無事に安全地帯まで降りたとのメールがきました。

この事例で考えさせられるのは、晴れ予報とは言え2月に3000mの独立峰の頂上付近にテント泊することのリスクを、どう考えているのかと言うことです。2、3の冬山テント経験者に聞いてみても、「私はやらない」と口を揃えました。私も同感です。一晩時間が経過するのですから、天気予報の変化は当然あることだし、最悪の場合でも行動可能な場所を選択するべきです。最近はやりのグランピングやオートキャンプの延長に冬山テント泊を考える方もいるのかもしれませんが、全く次元が違うということを理解しないといけません。

また、天気予報の精度は高くなっていますが、それでも微妙な違いは当然あります。100%ではないと考えて行動しないといけません。

(事例3)
先日宿泊のお客さんが到着するなり、「ラッセル疲れた~、こんなにあるとは思わなかった!」と言います。この前夜は降雪があり、その直後に先頭で来たのですから、ラッセルあるのは当然です。よく見ると、2人組なのですが、1人だけスノーシューを付け1人はアイゼンを付けています。「2人共スノーシュー付けて、2人で交代すればいいじゃないですか」と私が言うと、アイゼンできた人が「私は無理!腰痛めて(又は首だったか)そんな重いもの持てないから!」と宣います。それはそれでも良いですよ。相方がその負担を全て負うなら。でも(事例2)のように一晩時間が経てばアイゼンでは行動に支障出る程積もることもあるし、相方が疲れ果てた場合はどうするんでしょうかね。行動不能に陥る可能性もあります。ラッセルしない人、したくない人が冬に、ましてや2月にふらふら上がってきてはダメだと思います(絶対に頼れる同行者やガイドがいれば別です)。この先3月もまだまだ雪の積もることはあります。3月の雪は重いことが多いです。軽い雪のラッセルは楽ですが、重い雪のラッセルは……。気を緩めずに入山してほしいです。



3つの事例を上げましたが、他にも色々とあります。全てに共通することは、リスク管理が甘いということです。リスクとは、常に最悪の状況を想定しないといけません。他人に助けてもらうことを前提にするのではなく、パーティー(単独なら一人の)のもつ力量ですべてを解決できる範囲内で行動計画を立て、実際に行動する。これが冬山の基本です。

巷でよく言われている「一番簡単に登れる3000m峰」なんて言葉を鵜呑みにしないでください。これはバスで上れる夏山の事を言っているだけです。笑い話で済むぐらいの痛い目に合うだけならいいですが、警察沙汰になるなど他人に迷惑をかけるような事にならないよう、重々心して入山してください。
 
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